GINZA CONNECTIVE (高嶋ちさ子対談シリーズ)

黒川 光博×高嶋 ちさ子

GINZA CONNECTIVE VOL.72

黒川 光博×高嶋 ちさ子

2017.11.01

バイオリニストの高嶋ちさ子さんと、銀座人たちの対談シリーズ。高嶋さんにとって銀座は、仕事でもプライベートでも思い入れのある街。そんな高嶋さんがゲストの方に、銀座のあれこれをディープに聞いていただきます。今回のゲストは、室町時代後期から続く和菓子屋「虎屋」の17代当主で代表取締役社長、黒川光博さんです。

和菓子へのこだわりとオートクチュール和菓子

高嶋さん
月に何種類くらいの生菓子が販売されるんですか?
黒川さん
12~13種類くらいです。月の前半後半でそれぞれ6~7種出します。
高嶋さん
新商品も作られているんですか?
黒川さん
はい。新しい菓子を開発するセクションがあり、毎日のように新商品の試作を重ねていますね。それ以外では毎年、その年の干支と歌会始のお題にちなんだ菓子を販売しています。干支と歌会始のお題をイメージした菓子の意匠・菓銘を社内で募集し、選ばれた菓子は商品化されます。来年の干支である“戌”、歌会始のお題である“語(=ご)”にちなんだ菓子を今年も12月頃から販売します。
高嶋さん
こんなに大企業なのに、アットホームな感じなんですね。
黒川さん
そうかもしれませんね。スタッフ一丸となって取り組むことは大切なことだと思います。
高嶋さん
原材料は国産のものを使っているんですか?
黒川さん
いい素材であれば産地は問いませんが、現在は結果として国産になります。海外のものも使ってみたりしましたが、やはり小豆なども国産がいいです。とくに北海道の十勝産のものは素晴らしいです。やはり、いい菓子を作るためには良い材料が欠かせません。もちろん、きちんとその材料を生かせる技術力があるかどうかも問われますが、うちでも卓越した技術を持つ職人ほど、素材のクオリティにはこだわっています。
高嶋さん
オリジナルの和菓子を作れるサービスがあるそうですが。
黒川さん
もともとは和菓子屋というのは、お客様のご注文をお伺いして、ご要望に合うものを作っていました。それが和菓子屋の原点なんです。だから私たちも、和菓子のオートクチュールということで、そのお客様だけの特別な菓子を作りたかったんです。
高嶋さん
どのようにして作られるんですか?
黒川さん
ご要望やご用途を詳しくお伺いし、担当者がイメージを膨らませて菓子の図案を出し、試作品を作ります。たとえば贈る方のご趣味、お好きなものなどを伺って、イメージカラーやモチーフなどを決めます。私の還暦祝いのときには、妻がオーダーしてくれたゴルフ場を模した和菓子をもらいました。
和菓子オートクチュール 菓子の図案

和菓子オートクチュール 菓子の図案

和菓子オートクチュール 完成品

和菓子オートクチュール 完成品

世界的パティシエも魅了した虎屋のお菓子と今後の挑戦

高嶋さん
パリにもお店があるそうですね。
黒川さん
1980年にオープンしたので、37年目になります。先代が戦後はじめてパリに行ったときに、街並みが創業地の京都を感じさせるものであったことから、いつかパリに出店したいという思いに至ったようです。ちょうどパリ出店の前年にパリで菓子の博覧会があり、和菓子が好評だったことや、その他いろいろな好機が重なって、お店を構えることになりました。
高嶋さん
パリではどんな和菓子が人気なんですか?
黒川さん
生菓子です。見た目の美しさ、菓子の名前の由来など、フランスの方にとっても興味深いようです。また和菓子は植物性由来のものなので、ヘルシー志向の方にも人気です。
高嶋さん
たしかに、動物性由来のものが入っていない和菓子は、ヴィーガンの方にもいいですよね。どこか海外ブランドからコラボ商品の提案などないんですか?
黒川さん
そういったお話をいただくこともあります。ただ今のところはコラボレーションする予定はないです。10年ぐらい前でしょうか、ピエール・エルメ氏(パティスリー界のピカソと称される世界的パティシエ)が、和菓子や和菓子の素材について教えてほしいと当社の工場にいらしたことがあります。
高嶋さん
ではいつかピエール・エルメで餡子を使ったスイーツが出るかもしれませんね。
黒川さん
世界に和菓子が注目されるのはうれしいことです。私たちも羊羹を世界へ届けたいという思いがあります。厳しい挑戦になると思いますが、実現させたいです。
とらや パリ店

とらや パリ店

誰でも受け入れるような懐の深さを持つ銀座でありたい

高嶋さん
最後に、銀座に対する思いをお聞かせください。
黒川さん
『サンモトヤマ』(1955年創業のインポートセレクトショップの草分け的存在)の茂登山長市郎さんがおっしゃっていた言葉が心に残っているんですが、「銀座という街は古くからの店もあるし、新しい店もある。海外のブランドショップもある。古くからのお客様や、若い方、外国の方にもぜひお越しいただきたい。だから、“この街には似つかわしくない”というような排他的な考えではなく、みんな受け入れる街として存在するのがいいんじゃないか」と。私もこれに大変共感しました。当社は確かに歴史ある店かもしれませんが、500年前は新参者だったはずです。そう考えれば、みんな同じなんです。昔からあるという理由だけで新しいものを排除するべきではない。誰でも受け入れるような懐の深い街でありたいなと思います。だからこそ銀座には、いろいろな人たちが集まってくれるんだと思います。
黒川 光博×高嶋 ちさ子

高嶋 ちさ子

ヴァイオリニスト。6歳からヴァイオリンを始め、海外で活躍後、日本に本拠地を移し、全国各地でコンサートを行っている。現在は、演奏活動を中心としながらも、テレビやラジオ番組の出演などでそのキャラクターが評価され、活動の場はさらに広がりを見せている。

高嶋ちさ子オフィシャルウェブサイト

黒川 光博

1943年生まれ。富士銀行(現みずほ銀行)勤務を経て1969年虎屋入社。1991年代表取締役社長に就任。全国和菓子協会名誉会長、日本専門店協会顧問などを務める。趣味はテニス。

取材・文:岡井美絹子  取材場所:株式会社虎屋 本社

めざましクラシックス with フレンズ~ベスト・ヴォーカリスト~

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