レポート

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レクチャーシリーズ

文化プログラムに向けてVol.1『文化プログラム-ロンドンの事例 東京/日本の取り組み』

「スポーツと文化」の祭典であるオリンピック・パラリンピック。銀座では、自ら文化プログラムを立案し、実行していくための基礎となる知見を得て、2020年に銀座が何をすべきか、やりたいことを実現できるように、レクチャーシリーズをはじめました。第1回目はニッセイ基礎研究所より、吉本光宏氏を講師にお迎えしました。

講師:吉本光宏氏(ニッセイ基礎研究所 社会研究部 研究理事)
日付:2017年7月5日
場所:銀座伊東屋 BUSINESS LOUNGE

2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、日本から文化や芸術を世界に向けて発信する機会が訪れています。全銀座会G2020は、銀座らしい文化プログラムを自ら立案し、実行していくための基礎となる知見を得ると共に、国内外の様々な実践を実際に進めてきたディレクター、プロデューサー、事務局メンバーなどから現場の声を直接聞き、銀座が何をすべきか考えることを目的として、レクチャーシリーズをはじめました。第1回目はニッセイ基礎研究所より、吉本光宏氏を講師としてお招きしました。

文化プログラムの変遷

ニッセイ基礎研究所で芸術文化政策、創造都市、オリンピックと文化などを担当する吉本氏は、なぜオリンピック・パラリンピックが文化とセットなのか、その歴史を紹介することから話を始められました。

オリンピック憲章の根本原則の第1に「オリンピズムは生き方の哲学である」、「スポーツや文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求する」ことが明記されています。つまり、スポーツだけがオリンピックでなく、スポーツと文化が協力してこそのオリンピックであるということです。近代五輪の祖といわれるクーベルタンも「オリンピックというのはスポーツと芸術の結婚である。」という言葉を残すほど、文化芸術も重視していました。1912年のストックホルム大会から始まった文化プログラムは、当初芸術競技という形で行われたものの、芸術で競い合うこと自体への議論などから、1952年のヘルシンキ大会から芸術展示に変わり、1992年のバルセロナ大会から文化プログラムが始まりました。バルセロナは、その前のソウル大会が終わった1988年から毎年大規模な芸術祭を開催し、そのことは「Cultural Olympiad(文化のオリンピック期)」と呼ばれるようになり、北京、ロンドンと規模を増して文化プログラムが実施されてきました。

ロンドン大会の文化プログラムの実績

2012年のロンドン大会の「Cultural Olympiad」は非常に戦略的に展開されたもので、北京大会のパラリンピックの閉会式が終わった翌日にキックオフし、4年間のプログラムを実施して、そのフィナーレとしてのフェスティバルをオリンピック開会式の1か月前かに12週間行いました。ロンドン大会の文化プログラムに学ぶべきは、約1か月前からメディアが次々とオリンピック開催都市へやってくるタイミングに合わせ、1か月前から4年にわたって開催された文化プログラムのフィナーレを行い、世界的なメディアに発信させた点がまず挙げられます。世界中に発信されるオリンピックという「最高の場」を活用して、ロンドン及びイギリスの伝統的な文化や新しいイメージを効果的にアピールしました。

ロンドンの文化プログラムの具体例として、
イギリス全土1,000カ所以上でフェスティバルを行い、美術館や劇場だけでなく、普段行われないよう地方の小さな町の中の公園や広場などとにかく小さなスペースを使って芸術活動を行った。
■組織委員会のフェスティバル担当のもと、全国を12地区に分け、各地区にクリエイティブプログラマーを起用し、全英の美術館や芸術文化施設が事業パートナーとなることで、多くの文化プログラムを実施することができた体制作りを行った。
■オリンピックの開会式の朝、みんなが一斉に鐘を鳴らすプロジェクトには、全英で300万人が参加した。
■観光業が衰退した地域でアートプロジェクトを行い、フォトジェニックな景色が世界に発信されるよう仕掛けた。

各地でさまざまなプログラムが展開されることで、普段は文化に関心のない人達もこの機会に文化に触れて楽しんでもらえるものとすると共に、ロンドン市民、英国民の一体感を増したという点でも、モデルになると考えられています。

東京大会に向けた動き

組織委員会は、東京2020参画プログラムを立ち上げ、このなかの「東京2020応援プログラム」がロンドン大会の「inspired by London2012」にあたるもので、全部で8分野に渡ります。この8分野のうち、文化に関して行う参画プログラムが、東京2020文化オリンピアードの位置づけです。ロンドン大会と同じ枠組みでリオ大会が終わってからキックオフし、2020年5月にはロンドンと同様にフェスティバルを開催しようと準備が進んでいます。

国は、内閣官房が総括して、組織委員会が主催・公認するものとは別に「beyond2020」を立ち上げました。これは日本の文化発信と障害者のバリアを取り除くこと、外国人の言語の壁を取り除くことを目的としています。

文化庁は、文化情報プラットフォームとしてのWebサイトを作ろうとしています。このサイトに「beyond2020」に登録したい団体が登録し、認定されると、Web上で情報が紹介されます。

東京都芸術文化評議会(石原都知事時代に発足)は、2017年1月、助成事業に最も力を入れる方針を打ち出しました。民間発の事業を都がサポートする方針で、気運醸成、都民参加、海外アーティストの作品発表、最先端テクノロジーと芸術の融合の4つの枠組みの助成事業が予定されています。

文化プログラムを考える上でのSuggestion

最後に、銀座が文化プログラムを検討するのであれば、この機会にどのような戦略が立てられるのか、どのようなことができるのかという話題となりました。ロンドン大会の際に「World City Culture Summit」という国際会議が行われ、それに先立ち東京を含めた参加12都市の文化的特性のリサーチが発表されました。国によりないデータもあり、比較は少ないものの、ピアノの台数、お茶やお華を日常的に楽しむこと、新聞購読者数など、東京は高い数字が出たことから、日本人は自ら文化や芸術活動を楽しんでいることが特徴であることがわかり、普通の人が芸術を鑑賞するだけでなく、芸術活動を行うことに海外の人はとても驚いていました。

これを踏まえると、日本国内には1千万台、4世帯に1台あると言われるピアノを用いて、例えば東京大会の開会式に全国のピアノ1千万台が一斉にピアノを弾くというアイデアがあります。銀座にはヤマハや山野楽器もあるので、銀座から小さく始めて、それが全国に広がれば銀座発祥の文化プログラムになると思います。またオリンピック・パラリンピックのインターバルは盆踊りシーズンでもあり、全国で一斉に行うことも考えられるのではないか。お年寄りも障害者もみんなが盆踊りを踊る姿は、世界より先駆けて高齢化社会に入る日本を注目する世界に対して、高齢化社会の成熟した新しい国モデルを示す一端になるのではないか、と吉本氏は言います。

レガシーについては、2021年以降にどんな文化ビジョンを作っていくかを考えたうえで、2020年あるいはそれまでの文化プログラムを考える必要があります。
考えられるレガシーとして、以下の3点を挙げられました。
■日本や地域の文化・伝統の再発見、再評価することで地域の誇りが高まること
■国際的な発信、文化に触れることで文化の重要性をいろいろな人が理解すること
■文化事業を行うことで、その経験を持つ人材が育つこと。


最後に吉本氏は、「銀座は新しいものが生み出される場所だったと聞いています。是非文化オリンピアードをきっかけに、新しいもの、創造力を生み出す街になることを期待します」という言葉で締めくくられました。

News Letter Vol.9『「文化プログラム」の立案に向けて、レクチャーシリーズがはじまりました!』

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