GINZA CONNECTIVE (高嶋ちさ子対談シリーズ)

安藤 重幸×高嶋 ちさ子

GINZA CONNECTIVE VOL.30

安藤 重幸×高嶋 ちさ子

2014.03.05

ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんと、銀座人たちの対談シリーズ。高嶋さんにとって銀座は、仕事でもプライベートでも思い入れのある街。そんな高嶋さんに、ゲストの方をお迎えして銀座のあれこれをディープに聞いていただきます。今回のゲストは、宮内庁からも受注が来るほどの素晴らしい技術で知られる「安藤七宝店」東京支店長の安藤重幸さんです。

銀座は支店、本社は実は名古屋にあるんです。

高嶋さん
今日はよろしくお願いします。突然ですが、うちの姉が昔、七宝焼きを作っていたんですよ。今朝母に電話で、「今日は安藤さんのところへ行く」って言ったら、「あそこは、もうすごいわよ~」と言われて。
安藤さん
いやいや、まだまだです。お姉さまはどんな七宝をやられていたんですか?
高嶋さん
趣味で着物に付けるものですとか、鞄をかけるものなんかを作っていました。
安藤さん
そうですか。七宝は趣味の方から、職人が作るものまでいろいろな楽しみがありますね。うちでも鞄をかけるバックハンガーを取り扱っています。七宝は高価なものだと思われているかも知れませんが、販売している七宝も数千円のお手に取りやすいものから高額な物まで色々あるのです。
高嶋さん
今日は勉強させてください。ところで、安藤さんは東京支店長なのですね。東京が支店?
安藤さん
はい。銀座でお店をやっているとここが本店だと思われる方が多いんですが、本社は名古屋にあるんです。
高嶋さん
名古屋、大好きです!食べ物が美味しいので、ミュージシャンは名古屋の仕事だとふたつ返事で受けるんですよ(笑)。では、ご出身も名古屋ですか?
安藤さん
そうなんです。私は、生まれも育ちも名古屋です。本店は父が社長としてまだ元気にやっていますので、そちらは社長にお願いをして、私は30過ぎぐらいからここへ移って参りました。
高嶋さん
銀座が支店なんてすごいですね。
安藤さん
銀座本店のお店が多いので珍しいかもしれませんね。愛知県は、七宝に限らず、瀬戸物や常滑もあり、工芸の有名な土地柄なんです。
高嶋さん
創業130年以上ということですが、東京支店はいつからですか?
安藤さん
銀座の店は、1890年からですね。七宝店創業前は煙草のキセル屋だったんですが、キセルの装飾部分に金物や銀細工を扱うので、その一部で七宝をはじめたそうなんです。私の曽祖父の義理の兄が七宝焼きの店に特化させたのが、明治13年。その10年後の明治23年、1890年に、より大きなマーケットを目指そうということで、銀座に出て来ました。
高嶋さん
最初からこの場所ですか?
安藤さん
いえ、最初は現在の松屋さんの前で借家からスタートしました。でも、名古屋人は自分の店で商売をしたいという思いが強いようで、この場所を購入して店を移転してはじめたそうです。
高嶋さん
こちらのビル、広いですよね。全部七宝焼き屋さんなんですか?
安藤さん
1階と2階だけがお店で、3階が事務所です。それ以外は賃貸でテナントさんにお入りいただいています。
高嶋さん
ほー。いいなぁ、なんて…(笑)
安藤さん
ご先祖さまに感謝しないといけないですね。

美智子さまが七宝を気に入られているのか、皇室にも納めています。

高嶋さん
七宝焼きって、どのように作っているんですか?
安藤さん
今日は、完成するまでの工程を簡単にお見せしますね。七宝は見た目から陶磁器などを想像される方が多いんですが、実は金属でできているんです。ほとんどが銅版なんですよ。
高嶋さん
えー!知らなかった。じゃあ、割れないんですか?
安藤さん
おっしゃる通りです。ひびは入ることはありますが割れるということはございません。
高嶋さん
銅版にどうしたら、あんなに鮮やかな色が付くんですか?
安藤さん
ホウロウのような原理です。貴金属にガラスを焼き付けたものが七宝と呼ばれていまして、この工程見本の場合、まずは銅の赤身を消すために白い釉薬をつけます。そこから、花などの模様の絵を手で描いていきます。
高嶋さん
へー。…これは絵の輪郭が浮かび上がっていますね。
安藤さん
植線と言いまして、リボン状の線を下絵に沿って垂直に立てていくからなんです。
高嶋さん
わー、大変。超器用じゃないとできないですね!!
安藤さん
はい。ピンセットとハサミを使って、立てていきます。接着は、蘭の球根を粉末にしてお湯で溶いたものを糊として仮留めに使います。
高嶋さん
あ、でもこの作業、うちの旦那に向いているかも。すごく器用なんですよ(笑)。その後はどんな作業をするんですか?
安藤さん
色ガラスを粉末に砕いたものを絵の具のように使い、植線の中に詰め込んでいきます。赤のところには赤を、ピンクのところにはピンクを詰めて、すべて色で覆ったら焼き上げます。
高嶋さん
その作業を繰り返すんですね。
安藤さん
その通りです。一度だけだと色が焼き沈んでしまうので、2~3回、同じように色をのせて線の高さまで色がくるよう焼く必要があります。焼成後、表面が若干波打ってくるので、ここから研磨を行ないます。まずは砥石で表面を滑らかにしていき、次にスズの酸化物、ほう炭などで磨き、表面に光沢を戻します。
高嶋さん
すごい技術ですね。お米に絵を描く人みたいに根気がいる作業ですね。七宝焼きがこんな細かい作業を行っているなんて、知りませんでした。
安藤さん
われわれの宣伝不足もあって、ご存じない方が結構いらっしゃるんですよね。
高嶋さん
皇室からも受注されておられるとか。
安藤さん
はい。明治33年に宮内庁御用達ということになったのですが、今現在はそのような制度がないので、純粋に宮内庁の用度課というところからの注文に対して、商品を納めさせていただいております。
高嶋さん
さすがですね。どういうものを納められるんですか?
安藤さん
日本の皇族の方々には、それぞれ身の回りの品などにあしらうシンボルマークとして「お印」というものがございます。美智子様のお印である白樺をあしらった七宝宝石入れですとか、その他では桜モチーフの銘々皿のセットをお納めしております。これらは国内外での皇室ご公務の際、お贈り物として使われているようです。
高嶋さん
七宝焼きは、高いものだとおいくらぐらいするんですか?
安藤さん
うちの職人さんの見本となるように、高い技術で作られた明治期の作品を名古屋に置いているんですが、それなんかは値段の付けようがありませんが、現在の手間で考えると何千万円の世界だと思います。
高嶋さん
え!そんなに!
安藤さん
はい。うちのお店でも、最近七宝の地球儀を作りまして、それは900万円近くなりますので、細かいものだとそのぐらいになると思います。七宝というのは、ダイヤですとか金、銀などの宝石と違い、そのものの価値というより、手間と時間がそのままお金になりますので、お値段が張るものは、それだけいい職人が時間をかけて作ったものだと思ってくださればと思います。
高嶋さん
技術と時間を買うものなんですね。日本が誇る素晴らしい技術ですね。

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