インタビュー

情報レイヤーを幾つも重ね、メタで楽しむ銀座をつくる
牧野友衛さん(左)と直江宏一(右)

Amazing Ginza! Talk No.5

情報レイヤーを幾つも重ね、メタで楽しむ銀座をつくる

インターネットの特性をいかしたビジネスを、次々と日本に根付かせてきた牧野友衛さん。2年前には「メタ観光」という概念を提唱し、従来とは異なる新しい文脈で観光を語っておられます。銀座の街に、その新たなコンセプトはなじむのか――銀座の公式ウェブサイト「GINZA OFFICIAL」の運営を担う銀座インフォメーションマネジメントの直江宏一と、メタ観光を切り口に銀座の街づくりや情報発信について語りあっていただきました。

コロナ以降の街づくり

直江
これからの銀座を考えるにあたって、「コロナ以降」という大きなテーマがあります。基本的には、お客様に銀座に足を運んでいただいてすべてが始まる方法で商売を続けてきたので、来ていただけない、人を集めることができない状況で一体何をしていくべきか、すごく悩ましいです。オンラインで済ませられることもありますし、一時的にはそうせざるを得ないのでしょうが、正直なところ、人と人が直に接することで街に活気が生まれるのが望むべき姿ではないかと思うこともあって。
牧野
オンラインで解決できることは機能面なんです。物を買うという行動の解決にはなりますが、人は機能だけではなくて実体験も重視するものです。東京・谷中に、外国人にとても人気がある澤の屋という小さな旅館があります。一部屋4~6畳、一泊6000円ぐらいですが、泊まるのは予算の少ない人かといえば、前日にマンダリンオリエンタル東京に泊まった人も来る。つまり、宿泊者は日本の旅館という体験を求めているわけです。地元の人しか行かないような居酒屋巡りをするツアーや、商店街で食べ歩きするツアーも人気ですが、その参加者は高級レストランに行けば外国語対応を求めます。宿泊や食事には機能を求めるけれども、体験として小さな旅館に泊まったり、言葉の通じない居酒屋で食事したりすることは、別ものだと考えている。買い物の機能面はオンラインで解決できても、体験の部分にはオフラインでなければ解決できない何かがあるはずです。それらをどう引き出して、銀座で買い物することをどのように体験化していくかですね。
牧野
今年4月ぐらいからツアーガイドがライブストリーミングする「バーチャルツアー」が世界的に生まれだしました。世界中の人が見ているなかで、ガイドさんが受け答えしながらロンドンの街なかを案内したり。銀座もテレビショッピング的な体験の提供はありではないでしょうか。日本でもゲストハウスがバーチャル宿泊を始めています。オーナーが部屋を案内して日本中のお客さんとコミュニケーションして、翌朝には近隣を案内してお土産も売っていました。体験のオンライン化です。物を買う行為は、必要なモノだけを買っているわけではなく、おもしろいとかストーリーがあるから買うんだと思います。
直江
普段銀座で仕事をしていると、だんだん銀座の良さや価値に慣れてしまって、自分ではわからなくなります。牧野さんから見ると、銀座にはどのような魅力や価値があるでしょうか?
牧野
銀座って観光スポットのある「観光地」ではないんですよね。美術館や公園、寺社仏閣があるわけでもない。新宿、渋谷、池袋と比べても、ショッピングに非常に特化している街で、そこがかなりの特徴です。安全安心で、道もわかりやすく、小さなエリアにこれだけ多くの百貨店や店が揃っている所は世界的にも珍しいです。この特徴をもっともっと伸ばしていくといいですね。「世界一安全で安心で、あらゆるものが揃うショッピングの街が銀座です」と打ち出してもいいんじゃないでしょうか。

新たな銀座情報のレイヤーをつくる「メタ観光」

直江
銀座は観光地ではないとのお話もありましたが、一方で観光でも来てほしいという願いもあります。そこでわれわれが関心を持っているのが、牧野さんが提案されている「メタ観光」です。
牧野
奇遇にも、僕がメタ観光を最初に提唱したのは、この場所にあったソニービル(編集部注:現Ginza Sony Park)で行われたイベントだったんですよ。僕はGoogleやYouTube、Twitter、Tripadvisorとずっとインターネット上の情報を扱う仕事をしてきたので、あらためて観光とは何かと考えた時、「実際には目に見えていない情報」に価値があるのではないかと思い始めたんです。たとえば、この場所はアニメの舞台だ、誰かの生家だという情報です。銀座近辺でいうと、京橋のあった所には記念碑が立っていますが、今はもう橋はありません。実際に行っても何かあるわけではない所に人は何を見ているのだろう―そう考えると、観光というのは実は情報の消費なのではないか。目に見えていなくても、情報量が多ければ多いほど、街の魅力があるのではないかと考えました。メタ観光として僕が最初に例に挙げたのは、東京・神田の「竹むら」という甘味処です。東京都選定歴史的建造物であり、池波正太郎が紹介した店である一方でアニメ「ラブライブ!」や仮面ライダーの舞台となった店で、ポケモンGOのポケストップにもなっています。一つの店にたくさんの切り口があって、人々が違うものを求めて来店するんですね。
牧野
つまり、情報を増やして可視化すれば、街の魅力は実はもっともっとあるということに人々は気付くのではないかということです。こうしたことが観光として成立するのは「ここがいい」という情報が広まることと、その情報を知った時にそこに辿り着けることが必要です。それには特にどこが魅力なのかを簡単に個人が発信できるソーシャルメディアが必要だったし、同時にそこに行けるインターネットの地図、まさにGoogle マップが必要です。そしてもちろんそれを手元で利用できるスマートフォンの普及も重要な要因です。インターネット、スマートフォンの普及で情報が拡散しやすくなったことで、観光自体の多様化が起きています。そういう意味ではメタ観光はスマートフォン時代の新しい観光です。
銀座のメタ観光といったら、銀座なんて山ほど情報があります。これまで多くテレビや本で紹介されたり、ドラマや映画、小説などの舞台にもなってきたりしたと思います。そしてもちろんこれまでの銀座の歴史もある。ただ、それがまとまって可視化されてないんですね。いろいろな切り口で銀座の街を紹介すれば、ショッピングだけでない別の何かを求める人たちがどんどん来るようになるのではないでしょうか。街の魅力って本当はいろいろな人がわかっているのに、それぞれの趣味で分散していて他の魅力に気づかない状態だと思います。見過ごしたことに気づいていないんです。それを可視化していくことが必要です。
直江
私が所属する一般社団法人銀座インフォメーションマネジメントでは観光案内所を運営していて、銀座の「街歩きマップ」を定期的に発行しています。銀座の古い建築を巡る「銀座 建築ミュージアム」マップ、「文学の中の銀座」マップなど、切り口はさまざまです。今は紙のマップを観光案内所で配ったりPDFをウェブサイトで公開したりしていますが、IT技術でより見やすくアクセスしやすくすることが大事ですね。それと、メタ観光的には、この街歩きマップの情報が多層で見られるようにすると、新しい銀座の魅力発信につながりそうです。
牧野
レイヤー(層)ですよね。情報はレイヤーにできますから。今の人は1つのことだけに興味があるわけではありません。建築に興味ある人も、銀座の建築巡りだけでなくて作家が通った銀座のレストランのご飯も食べたい。知れば知るほど、銀座をもっと深く知りたくなる。銀座は歴史もあるし、そういう魅力や切り口がものすごくあります。それをどうやって掘り起こして可視化できるかですね。

買い物を楽しみ、街のなかでくつろぎ過ごせる銀座へ

直江
コロナの終息はまだ見えませんが、5年後10年後に向けて、銀座が準備しておくべきことについてご助言いただけますか?
牧野
インターネットではできない、新しい買い物体験を提供することです。一度コロナを経験した以上、5年経っても10年経ってもコロナ前と同じ状態には戻れないはずです。相手との距離を取りたいという希望を考慮したショッピングを考える必要があります。混んでいる小さな店で買い物するだけで気持ちがざわつくという人たちを思うと、銀座は歩行者天国をうまく利用したらいいのではと思います。東京高速道路をニューヨークのハイラインのような「緑の遊歩道」にするという計画もあるので、もしそれが実現するなら、うまく生かしてショッピングの街がつくれたらおもしろいですよね。
直江
銀座は小さな店も多いので、みんなの持ち物としての通りや歩行者天国の活かし方も考えたいです。そして、銀座ならではの新しいショッピング方法をうまく発信するということですね。
牧野
歩行者天国を、お店を紹介するショーケースとして活用するのもいいと思います。たとえば、コロナ以降はテラス席が求められているので、歩行者天国をレストランにする。銀座のいろいろなレストランが参加して、どこの料理でも歩行者天国で食べられる一大レストランストリートにしたらすごくおもしろい。路地にあって気づかれにくかった店も、そのショーケースでメニューを出せば来店につながるかもしれない。そんなことがあってもいいんじゃないでしょうか。銀座は大きな公園があるわけではないので、街を公園にするという考え方もあり得るでしょう。
直江
ヨーロッパはオープンテラスのレストランによって街の雰囲気が作られていますよね。大通りに車が入れないようにして、たくさんの店がテラス席を出したり、真ん中にメリーゴーラウンドがあったり、子どもたちが遊んでいたり。日本は、銀座に限らずですが目抜き通りの規制が・・・。
牧野
ヨーロッパの都市と東京の一番の違いはそこです。東京は街なかで何かをすることに厳しすぎる。ヨーロッパはどこで何を食べても飲んでもよくて、「街のなかにいる感」がありますよね。東京の道路は歩くこと以外はダメだから、街なかでのくつろぎ感が全然違うんです。そういう規制はなくした方がいいんじゃないかと思いますよ。もっと街なかでくつろげるようにする。せっかく銀座には歩行者天国があるし、もしハイラインができるならうまく活用して、「街のなかで過ごせる」街づくりができると理想的です。気持ちよい実感を持てるショッピングの街というのは良いと思います。
直江
銀座の比較的新しい商業施設の屋上は庭園になっていて、一般に開放されているので、お弁当を持って行ってランチもできます。すごく気持ちいいです。気持ちよく過ごせている実感が大事ですよね。古いビルでも、屋上にお稲荷さんがある建物が銀座には結構あります。
牧野
屋上を開放している銀座のビルのマップをつくるのはどうですか?高い建物が無い銀座の屋上はとてもいい。建物の高さ制限は銀座の価値ですから。でも、どこのビルの屋上なら入れるのかわれわれにはわからないので。あとは銀座の地下道。札幌の地下街とまでは言いませんが、地下道はもっとうまく活用できるはずです。僕は実家が墨田区なので、かつては地下鉄で行く一番近い街が銀座でした。東銀座駅で降りて、地下道を歩いてまちなかまで来ていました。それと、企業系ギャラリーの多さにも注目しています。エルメスのフォーラム資生堂ギャラリーシャネル・ネクサス・ホールポーラ ミュージアム アネックスATELIER MUJI GINZA、DNPのギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)、どれも企画のレベルが高く無料なのに、あまり紹介されない。美術館はなくてもすばらしいギャラリーが多いことは、もっとPRするといいですね。
直江
ちょうど今GINZA OFFICIALで、お店の紹介以外の切り口で新コンテンツを作ろうとしています。今回お話をうかがった「メタ情報」を集積して、アートギャラリーを巡り、屋上巡り、路地巡り、映画ロケ地巡りなど、多層で街歩きができるプラットフォームにできたらすごくいいと思いました。
牧野
昔の手書き看板の文字を拾ってデジタルフォント化する「のらもじ発見プロジェクト」というものがあるんです。なんでもない店の文字フォントが本当にかっこいい。僕はよく、観光の話で「その土地の魅力はすごくなくてもいい」と言っています。観光ってどうしても歴史的なものや大掛かりなものなど大げさに考えがちですが、その土地にある住民の方々の気付いてないなんでもないようなものが観光客にとっての魅力であることはあります。今や手書き看板の文字を魅力に思い、その土地に観光に行く時代です。人々のとらえる価値は多様化しています。あまり大げさなことを考える必要はないんです。いくらでも魅力は見つかるはずですよ。今日もタイルの前で写真を撮りましたが、タイルマニアなんて絶対にいますから(笑)。
直江
今日伺ったお話は銀座の街づくりや銀座公式サイトの運営に、たくさんのヒントになりました。ありがとうございました。

(2020年9月24日 Ginza Sony Parkにて)

対談者プロフィール

牧野友衛(まきの・ともえ)

牧野友衛(まきの・ともえ)
トリップアドバイザー株式会社 代表取締役

1973年東京都生まれ。AOL、Google、Twitterで製品開発や業務提携を担当し、Twitterでは成長戦略の責任者として国内での普及に尽力。2016年より現職。総務省「異能(Inno)vationプログラム」 アドバイザーのほか、東京都「東京の観光振興を考える有識者会議」などの専門委員としてイノベーション・戦略・ マーケティングの観点からアドバイスを行う。

直江宏一(なおえ・ひろかず)

直江宏一(なおえ・ひろかず)
一般社団法人銀座インフォメーションマネジメントGinza Official統括理事/株式会社丸江藤屋取締役

1976年生まれ。慶應義塾大学卒業後、シャープ株式会社にて移動体通信の研究開発に従事、4年間の南仏駐在も経験する。2010年株式会社丸江藤屋入社、婦人服店舗運営をはじめ経営全般に携わる。2016年より一般社団法人銀座インフォメーションマネジメントの理事就任、銀座公式ウェブサイト「銀座オフィシャル」のサイト運営を担う。休日はスキーやフットサル、水泳などのスポーツを楽しみつつ、趣味のプログラミングは今も続けている。

  • 撮影 : 鈴木穣蔵
  • 構成・文 : 若林朋子
  • 企画・調整 : 永井真未、竹沢えり子(全銀座会G2020)、森隆一郎(全銀座会G2020アドバイザー、渚と)
  • 会場協力 : Ginza Sony Park