銀座たてもの探訪

銀座たてもの探訪

銀座たてもの探訪 第7回 泰明小学校

 日比谷から銀座への入口のひとつ、数寄屋橋跡にある数寄屋橋公園は岡本太郎による時計台(若い時計台と名づけられています)が建っており、時を刻んでますが、その後ろに丸くカーブした建物が見えているのをご存じでしょうか。
 この建物は銀座に残る唯一の小学校として知られる泰明小学校。明治11年に創立された150年近い歴史を持ち、校舎は改装されながらも戦前のものが今も現役です。関東大震災後の昭和4年に竣工した復興小学校のひとつで、昭和28年には泰明幼稚園も併設され、銀座という土地にすっかり溶け込んでいます。
 今回は春休み期間を利用して、その泰明小学校にお邪魔して建物を見せていただくことにしました。

数寄屋橋跡の数寄屋橋公園。岡本太郎の「若い時計台」と丸い建物が
数寄屋橋跡の数寄屋橋公園。岡本太郎の「若い時計台」と丸い建物が
荻窪
この丸い建物、数寄屋橋公園に来るたびに気になっていたんですよ。実は小学校だと知り、昔はどうだったのだろうと昭和16年の京橋区の地図を見ると、今と同じ場所に今と同じ敷地の形で存在していて驚きました。本当に戦前からあったのだなと。まだ外濠も数寄屋橋も存在し、数寄屋橋公園っぽい公園も描かれてます。この時点ですでに今の校舎が建っていたのだから、外濠がある時代からそこが埋められてKK線(東京高速道路会社線)になり、そしてKK線が廃止されるまでずっと数寄屋橋の歴史を見てきた建物なのですよね。
昭和16年の「京橋区詳細図」(日本統制地図社)から、数寄屋橋あたり。泰明小学校の現在と同じ細長い敷地が外濠沿いにある。
昭和16年の「京橋区詳細図」(日本統制地図社)から、数寄屋橋あたり。
泰明小学校の現在と同じ細長い敷地が外濠沿いにある。
宇井野
素敵な正門のある泰明小学校はもちろん知っていましたが、この公園側の趣のある建物もそうなのだとは知りませんでした。
荻窪
わたしが銀座へ来るときはたいてい日比谷駅から歩くので、その途中、この公園からの光景を見ていたのです。今日はお邪魔できるということで楽しみにしておりました。さて、入口はどこに?
宇井野
数寄屋橋公園は学校の裏側にあたります。みゆき通り沿いの正門へ行きましょう。
みゆき通り沿いに連なる塀とおしゃれなフランス門。
みゆき通り沿いに連なる塀とおしゃれなフランス門。
荻窪
すごくおしゃれな門がありますね。こちらはフランス門と呼ばれていて、南フランスの貴族の館で使われていた門を1992年に移築したのだそうです。撮影禁止ですが、今回は児童も園児もいない時期ということで特別に撮影許可をいただいてます。でも門が閉まっていてここからは入れなさそうですね。
宇井野
はい。このフランス門が開くのは児童たちの登下校の時なので私たちはこちらの正面玄関から入りましょう。
みゆき通り沿いの校舎の正面玄関。柱や軒の意匠が見事で重厚。
みゆき通り沿いの校舎の正面玄関。柱や軒の意匠が見事で重厚。
荻窪
正面玄関を彩るカップを積み重ねたような柱や軒のデザインが重厚でユニークですね。関東大震災後の建築なので地震にも耐えられるよう頑丈に設計されたのでしょう。
宇井野
だから建てられてから100年近くたっても現役なのでしょうね。最初にどこを見せていただきましょうか。
荻窪
やはり校庭から校舎をじっくり見たいですね。どんな形の校舎なのか気になります。普段はじっくり見る機会がありませんから。
宇井野
部外者が小学校をじっくり見てたら不審者が、と騒ぎになっちゃいますからね。
荻窪
校庭から校舎の全体像です。土地の関係か、横に長く伸びて左右が少し手前に折れているのが特徴的ですね。
宇井野
校舎を覆う蔦が緑になる季節はより歴史を感じさせてくれて見応えがあります。蔦の葉がない今の季節は逆に建物全体がよく見えてそれもまたいいですね。
春には蔦が絡まる3階建ての校舎。ウイングのように広がっている
春には蔦が絡まる3階建ての校舎。ウイングのように広がっている
荻窪
校舎の中央にあるバルコニーと時計も気になります。普段は使ってないそうですが、校庭に集まった児童を一望できる場所だけに、建てた当初は何かに使われていたのでしょう。
正面から。2階からせり出たバルコニーに時計が設置されている。
正面から。2階からせり出たバルコニーに時計が設置されている。
宇井野
校舎の窓枠にも注目したいですね。最上階の窓がすべてアーチ状になっていて美しい。
最上階の窓はすべて上部がアーチ状で統一されているのが特徴。
最上階の窓はすべて上部がアーチ状で統一されているのが特徴。
荻窪
校舎は3階建て。今の感覚だと低層なのかもしれませんが、子供たちにとってはちょうどいい高さかなと思います。
宇井野
では校舎の中を見せていただきましょう。児童のみなさんが使っている昇降口から。扉こそ現代のものですが、逆三角形を組み合わせた柱などの意匠は昔のままですね。
児童はここから出入りする。柱や軒の意匠は正面玄関と同じだ。当時のものと思われる灯りも。
児童はここから出入りする。柱や軒の意匠は正面玄関と同じだ。
当時のものと思われる灯りも。
荻窪
下駄箱を抜けて校舎に入りました。昭和初期の建物をそのまま使っていて不便なところはないかと先生に伺ったら、階段が多いことだとおっしゃっていました。わたしが小学生の頃は学校は階段だらけというのが当たり前でしたが、バリアフリーという観点ではご苦労もありそうです。1Fの廊下を少し歩いたらもう段差が。この階段だけは当時のままだそうで、リニューアルされた廊下や壁とのギャップが面白いですね。
下駄箱から教室へ向かう途中の階段。ここだけ当時のコンクリートが剥き出しになっていて歴史を感じさせる。
下駄箱から教室へ向かう途中の階段。
ここだけ当時のコンクリートが剥き出しになっていて歴史を感じさせる。
宇井野
中に入ると内装や設備は大幅にリニューアルされた現代の小学校ですが、ところどころに当時の意匠や素材の断片を見つけることができますね。今は父兄、さらにはお祖父様やお祖母様になった何十年も前の卒業生が訪れたら、子供時代の記憶が様々に蘇ることでしょう。この階段にもたくさんの思い出が詰まっていそう。
歴史を感じさせる立派な階段。踊り場に大きな窓があり、採光が考えられていて明るい。
歴史を感じさせる立派な階段。
踊り場に大きな窓があり、採光が考えられていて明るい。
荻窪
これだけ広くてりっぱな階段、子供時代の私たちなら遊んだりふざけたりして怒られたに違いありません。踊り場の窓もきれいなアーチがあって光が入って明るそう。最上階の教室も見せていただきました。アーチ窓の部屋は明るくてよさそうです。昭和初期の校舎に黒板は似合いますが、横に大きなモニタがあるのが現代的でよいですよね。
最上階の教室。空調が入ったり大きなモニタが置かれたりしても黒板は健在。
最上階の教室。空調が入ったり大きなモニタが置かれたりしても黒板は健在。
宇井野
廊下の突き当たりにあるアーチ窓もいいですね。みゆき通りに面してるのでビルが目の前に見えます。道路を挟んですぐ街、というのも銀座の小学校らしさですね。
廊下の突き当たり。奥に見えるのはみゆき通り沿いのビル。
廊下の突き当たり。奥に見えるのはみゆき通り沿いのビル。
宇井野
休み時間や体育の時間は校庭が使われます。銀座という土地柄、校庭の広さに限りがあるので、休み時間についてはルールをつくって交代で使うそうです。
屋上から見た校庭。桜の木の左に見える公園は、校庭の一部として使われている。
屋上から見た校庭。桜の木の左に見える公園は、校庭の一部として使われている。
荻窪
校庭と公園の間にちょうど桜がありましたね。桜の左側の公園が、平日は小学校の一部として、学校が休みの日は公園として一般公開されます。では屋上も見せてもらいましょう。校庭を広くとれない分、屋上も運動や遊びに使えるよう充実していました。都会の小学校ならではですね。
屋上には直線のコースやバスケットコート。床に方角が示されているのもよい。
屋上には直線のコースやバスケットコート。床に方角が示されているのもよい。
宇井野
屋上の庭園ではアサガオや野菜の栽培も行われています。ところで、夏の運動といえば水泳、ですが泰明小学校にはプールもちゃんとあります。
荻窪
この土地のどこにプールが? 屋上にプールがある学校は見たことありますが、先ほど見た屋上にはありませんでしたし。
宇井野
実は校舎とKK線(竣工当時は外濠)の間にあるのです。隣にはかわいいペンギン像がついた幼稚園のプールもあります。
校舎と2025年に閉鎖されたKK線の間にプールがある。
校舎と2025年に閉鎖されたKK線の間にプールがある。
小学校のプールの隣には幼稚園のプールがあり、名物のペンギン像が。
小学校のプールの隣には幼稚園のプールがあり、名物のペンギン像が。
荻窪
なんと外からは見えないところにちゃんとあるのですね。ペンギン像は昔からあったそうですね。
宇井野
プールを改装する時もこのペンギン像は引き継がれてきました。長くあいされてきたのですね。さて、運動してお腹が空いたらお楽しみの給食ですね。校内の給食室で調理されています。素敵なランチルームもありますね。照明も凝っており、パーツは現代のものに変わっていますが、雰囲気や意匠はかつての作りを残しているそうです。
レトロな雰囲気を残したランチルーム。
レトロな雰囲気を残したランチルーム。
荻窪
ランチルームは食事時間に学年やクラスの仕切りなく交流できるようにと用意された場所で、海外の学校にはよく見られるそうです。その他にも児童たちの委員会活動や会議のようなことに使用できる場所になるそうです。
宇井野
さて、学校の行事に欠かせない場所、体育館と講堂も見せていただきましょうか。
荻窪
わたしが通っていた小学校(50年以上前!)は体育館兼講堂だったのですが、ここはそれぞれがあるのですか? といってもどこにそんなスペースが?
宇井野
校舎に隣接しています。まずは体育館を見てみましょう。
ちょっと天井が低めの体育館。
ちょっと天井が低めの体育館。
荻窪
天井はそれほど高くはないですが、確かに体育館です。
宇井野
そして体育館の傍の扉を開けると…螺旋階段がありますよね。階段を昇ってみてください。
丸い壁に沿って作られた階段。右手窓の向こうに数寄屋橋公園が見える。
丸い壁に沿って作られた階段。右手窓の向こうに数寄屋橋公園が見える。
荻窪
この螺旋のカーブは、もしや。。。
宇井野
そう、数寄屋橋公園から見えるあの丸くなったところがこの階段です。そしてこの階段を上ると体育館の上が講堂なんですね。この階段は舞台裏に出るようになっているので学芸会や演奏会といった舞台活動の時は楽屋口として使われるのでしょうね。
荻窪
ではいったん校舎へ戻り、児童のみなさんが入場する時と同じルートでもう一度講堂へいきましょう。校舎から階段を上って扉を開けると、立派な講堂が待っています。
廊下から広い階段を昇ると、立派な講堂が出迎えてくれる。
宇井野
つい最近、講堂では卒業式が行われました。緞帳と引幕があり、上部の水引幕には泰明小学校の校章「み空の星」がありますね。素晴らしい舞台です。今度は新入生をここで迎えるのですね。
荻窪
決して広い土地ではないのに、体育館と講堂を上下に重ねることでそれぞれ用意しているというのに驚きました。
宇井野
今回、もうひとつ注目した設備がありました。正面玄関から入ってすぐの場所にあった放送室です。
荻窪
学校に放送室はつきものですが、「泰明放送局」という立派な室名札がついています。名前と書体がいいですね。
放送室は「泰明放送局」という。放送中は、ON AIRと点るサイン灯も
放送室は「泰明放送局」という。放送中は、ON AIRと点るサイン灯も
宇井野
講堂といい、放送室といい、ちょっと大人っぽい設備が学校生活をとても豊かにしてくれそうですよね。
荻窪
最後に外から見てみましょう。今日は学校が休みでしたので、隣接する小公園から校舎を見ることができます。学校がある日はこの小公園は出入りできませんので注意してくださいね。
普段は閉まっているが、学校のない日はこのように一般公開される小公園。
普段は閉まっているが、学校のない日はこのように一般公開される小公園。
公園からは遊具や桜ごしに校舎を眺められる
公園からは遊具や桜ごしに校舎を眺められる
宇井野
数寄屋橋公園から講堂に至る螺旋階段を見られるのもいいですね。
数寄屋橋公園から見える校舎の丸い部分は階段室なのでした
数寄屋橋公園から見える校舎の丸い部分は階段室なのでした
荻窪
銀座に昭和初期の建物をずっと使い続けている区立小学校がある、というのは知識としては知っていましたが、実際に訪れることができて銀座という土地ならではだなと実感することができました。小学生の数が時代によって大きく変動するなか、昭和初期の校舎を当時の雰囲気を保ったまま使い続けているのはさすがです。特に高度成長期には子供の数が急激に増えましたが、銀座という土地柄、住宅地ほどの増加はなかったことが幸いして建て替えたり増築しなくても使い続けられたのでしょう。逆に銀座に住む人が少なくなった今は学区外の子も通学できるシステムを作り、小学校として成り立たせてます。そういう意味でもすごく貴重なので、いつまでも使い続けてほしいなと思います。

銀座の古き建物はほとんどが商業施設です。その中にあってこの泰明小学校は歴史を現存させる唯一の文化施設と言えるのではないでしょうか。この貴重な建物は、ここから羽ばたいて行った大勢の卒業生の愛校心に支えられて残っているのだ、ということも印象的でした。銀座っ子の心意気、ここにあり!