インタビュー

信頼を礎に「捉え直し」と「再定義」で街の未来を考える
蓮沼執太さん(左)と永野大輔(右)

Amazing Ginza! Talk No.7

信頼を礎に「捉え直し」と「再定義」で街の未来を考える

ジャンルを問わない多彩な音楽制作に加えて、コンサート、ギャラリーでの個展、フィルハーモニック・ポップ・オーケストラの指揮など、ボーダレスに活躍する音楽家/アーティストの蓮沼執太さん。これまで蓮沼さんとプロジェクトをともにしてきたGinza Sony Parkを運営するソニー企業株式会社代表取締役社長/チーフブランディングオフィサーで、一般社団法人銀座通連合会常務理事も務める永野大輔が、蓮沼さんとの接点を探りながら、音・音楽と街について語り合いました。

リズムのある街はおもしろい

永野
蓮沼さんは、資生堂ギャラリーの「蓮沼執太: ~ ing」展(2018)や、和光の時計の鐘の音のプロジェクト『BELLS』(2020)、ここGinza Sony Parkでも多数の企画に関わっていただくなど、銀座でいくつもプロジェクトを実施されています。銀座のイメージは変わりましたか?
蓮沼
僕は東京生まれですが、銀座に来ることはほとんどなくて、歳を重ねて作品づくりや活動で銀座の街と接するようになると、ステレオタイプなイメージから、銀座の見え方が変わってきました。資生堂ギャラリーの展覧会では、銀座の音は朝と昼と夜で表情が全然違うことに気づいて。銀座のいろいろな場所で音を採取すると、西と東と北と南でもまったく違う。だんだんと銀座の表情が雑多になって、銀座はいろいろ持っていると思うようになりました。
永野
銀座は朝夕の表情が変化しますよね。蓮沼さんを前に何ですが、僕は銀座の街のリズムだと思っています。ソニーパークをつくるときも、街にリズムをつくりたいと思いました。うれしいこと、悲しいこと、つらいことのリズムで人生が豊かになるように、街も、高級なお店やきれいな通りだけではなく、幹線道路も路地もあれば、老舗も新興のお店も、高いビルも低いビルもあるという多様なリズムがあるからこそいい。ソニーパークは、物理的にもアッパーでなくダウンだし、スタイル的にもドレスダウンして若者も増えたらいいなと。歩いて楽しいウォーカブルな銀座のリズムをつくる、ボーダレスな一塊になればと考えました。
蓮沼
リズムのお話、とても音楽的ですね。ステレオタイプから、ノイズというか違和感がつくられて、リズムも反復やハーモニーも多様にあることで、やっと社会が成り立つと思います。ソニーパークがそれを考えて設計されているのはすごい。いつでもアクセスできるという感覚は、近代以降の、特に都市生活ではなかなかないですよね。人間の営みにはかなり大切なことなのに忘れがちで、リズムすらもう自分でつくれない。設計されたものに合わせて穏便にいかざるを得ない流れのなかで、空っぽな場所をつくることで起伏が生まれるという発想は、なるほどと思います。もちろんソニーパークは空っぽではないですが。
永野
「街に開かれた施設」というコンセプトは、実は1966年にソニービルをつくったときに、ソニー創業者のひとり盛田昭夫さんと建築家の芦原義信さんが導き出したんです。プライベートカンパニーでありながら、パブリックにスペースを開いて街に貢献する。建物は街の一部であるという思想で、当時から公共性をかなり意識していました。ソニービルの数寄屋橋交差点に面した一角の10坪のオープンスペースを、盛田さんは「銀座の庭」と呼んでいました。私企業の土地を庭と言ってパブリックに開放する、街に開かれた施設の象徴的なインターフェース。ソニービルオープン時の企画は、伊豆大島から持ってきたアセビの木を壁面に植える、今でいう物産館のはしりでした。数寄屋橋交差点に面した一番いい場所はエントランスにするのが普通なのに、パブリックスペースにする発想と懐の深さを、ソニーパークでも継承しました。単純な建て替えでなく、いったん公園にして「街に開かれた施設」を継承しながら、銀座の庭をもっと広くできると考えたんです。
蓮沼
実際、広いです(笑)
永野
50年間お世話になった銀座への恩返しでもあります。軒先を借りた感じで、街との境界をボーダレスなオープンスペースにする。軒先にはさまざまな人が入って来ます。いろいろなものを受け入れながら、受け流す。あまり意志を持たないのがいいんです。
蓮沼
へたすると、入って来る人はソニーパークだとわかっていない可能性ありますよね。「ここからがソニーパークです」と言わないわけですから。
永野
ソニーパークの地下にあるベンチ的なところは、あたかもパークの一部のようですが、実際は敷地外で街の一部です(笑)。ニューヨークのタイムズスクエアも、どこまでが敷地かわからず、街と融合していておもしろいですよね。境界が曖昧だからこそ自由に行き来できるし、人が大勢来る。あの光景も、もはや都市機能の一部です。

あらたなパブリックをつくりだす

蓮沼
都市の公共的なものをどんどんハッキングして、拡大していますね。そうすると場所に余白が生まれ、いろいろなアイデアが投入できます。「いろいろなものが投入できる」という個性もできあがる。僕のソニーパークでのプロジェクトは、いろいろ素直に投げ込んで、全部違う切り口でやらせていただいています。日本は、音楽は音楽の場所、美術は美術の場所など、場所と作家の向き合い方が凝り固まっています。そうではないボーダレスな考えのソニーパークには、自分も柔らかいアイデアを出すようにしています。それを実現してくれる場所があって、スタッフがいる。奇跡的な巡り合わせです
永野
うれしいです。蓮沼さんのプロジェクトはどれもパークと相性がよくて、自然とはまります。蓮沼さんとソニーパークには3つの共通点があると思うんです。1つは実験的であること。2つ目は、いま話が出た余白があること。遊び心があるし、ジャンルが決められない。アーティスト、音楽家、フィルの演奏者、指揮者とすごい余白です。3つ目はパブリックとの相性のよさ。
蓮沼
すべてプラスに受けとめていただいて(笑)。
永野
勝手にシンパシーを感じています(笑)。パークを2年半運営していると、商品プロモーションなど相性が悪い場合ももちろんありますが、相性がよくて共通項が多いのはアートと音楽です。ソニーパークは、入って来るお客さまに「使い方はあなたに委ねますよ」というスタンスです。音楽やアートも「感じ方はあなたに委ねますよ」ですから、キャパの広さが根源的にマッチしているんですね。蓮沼さんのプログラムが特に相性がいいのは、実験的で、余白がいっぱいあって、パブリックな側面を持っているからです。
蓮沼
再三言いますが、プラスに受けとっていただきまして(笑)。
永野
ソニーパークはプライベートとパブリックが混在した場ですが、蓮沼さんの活動も混在していますよね。蓮沼さんはよく、音楽ではなく「音」と言います。音楽はミュージックで、音はサウンド。僕は、プライベートはミュージック、パブリックはサウンドだとイメージしますが、ここはプライベートでパブリックな場所、蓮沼さんの活動もミュージックでありサウンドですよね。
蓮沼
公園はパブリックだとよく言われますが、ニューヨークの公園で「Someone’s public and private / Something’s public and private」というプロジェクトをしたときによく観察してみたら、みんな自分のことばかりしていました。公園の中はすごくプライベート。プライベートなみんながいる公園の状態がパブリックだということ。音と音楽も同じで、音はそこに既に存在しているもので、音楽は音を集めて人間が作りだすもの。今おっしゃったパブリックとプライベートの関係と一緒ですね。
永野
新しいパブリック論になりそう。おっしゃる通り、パブリックはプライベートの集合体です。個人にとって、お弁当を食べる時の公園はプライベート空間で、その集合体がパブリック。ソニーパークも、集まる人たちの、待ち合わせや休憩という営みによって公共性がつくられます。人の営みのワンユニットはプライベート、その集合がパブリックだと、開園以来の2年半強く感じています。

街の可能性は余白がつくる

永野
建て替え前のビルを一度公園にしたら、固定資産税が何年か免除されるとか、次のビルディングの容積率を一定程度緩和するなどのインセンティブがあれば、みんな公園にするかもしれない。そうしたら、街にもっと余白ができて、緑が増え、リズムができて、おもしろくなって、アーティストも入ってくる。街にソーシャルディスタンスをつくれないかと本気で思います。
蓮沼
絵空事ではなく、社会を変えていかないといけない状況です。社会のフレームをつくる側の人たちは、率先してそういうアイデアを形にしてかないと、社会が変わらない。アーティストも、決められたことのなかだけで考えるのは厳しいです。作家は固定概念や当たり前を、まずは疑って、「さあ自分は何ができるか」と作品を作っていく。そこから余白が生まれるわけで、アーティストだけでなく一般の人も、全員がそうやって生きていかないと豊かになれません。もっと言えば、全部更地にして一度公園にすることが当たり前になったら、それはそれでまた何か課題が生まれるはずです。そのときアートや音楽は、何らかの意見や姿勢を作品として物理的に見せる必要がある。アートや音楽は課題や社会を映す鏡ですから。
蓮沼
僕は、運よくいろいろな巡り合わせで、ソニーパークを中心に資生堂ギャラリーなどでも活動してきました。資生堂ギャラリーも、まさにアートの公園です。非営利の活動を長い間絶やさず社会に貢献していることも一つの形。現代美術なんか必要ないという声も当然あったでしょうが、100年以上もギャラリーを続けている。こういう活動は丁寧に育てて大切にしていかなければならないし、社会で新しく作り変える必要のあるところは作り変えないといけない。これもアーティストだけではなくて、全員が考えねばならないことだと思います。
永野
フラットな場所をつくると、埋まらないことが怖くなりますが、相手に委ねればいいんです。そのためには、もっと人を信じる、社会を信じるほうがいい。信じて委ねて余白があれば、埋めてくれる人は必ずいます。こういう時代だからこそ一層、人を信じたほうが社会は変わると実感しています。パークをつくるときに、夜の施錠のこと、ホームレスや立ち小便する人がいるなど、いろいろ言われました。でも施錠したら公園ではなくなります。一定のところで性善説に立たないと公園はつくれません。性悪説では世の中が窮屈になって施設も閉鎖的になります。2年半、大きな事故もなく皆さん楽しく過ごしてくれています。社会に対して1つの提案ができている自負はあります。なかでも一番活躍しているのが蓮沼さんです。
蓮沼
2019年にゲリラライブをしたことがあります。急に音楽が始まることで、日常空間に異物を投入するという発想です。どこでやるか、ぱっと思い浮かんだのがソニーパークでした。相談したら、いいね、やってみようとやっぱり言ってくれて。ゲリラライブのような非営利のアクションを受け入れてくれること自体がすごい。結果、通りすがりの人もぱっと集まってきてくれて何の問題もなく実現しました。人を信頼する話で言うと、アンサンブルは信頼関係がないとできません。メンバーとの時間を共有し、その日のコンディションを受け入れながら合奏していくことで、その時しかできない音で空間が埋まっていく魅力があります。音楽の世界だけでなく、社会がそうなっていくことですよね。余白とは少し違いますが、風通しの良さは、人と人との関係性に誠実に向き合うことでできあがっていくと思います。

「捉え直し」と「再定義」の試み

蓮沼
僕は街にBGMが流れていることに、どうも違和感があります。メディアが発達して、いつでも音楽にアクセスできるようになった状況を、捉え直したい。人がつくったものが何でもかんでも流れている背景に資本主義を感じます。日常の根っこに、当たり前のものとしてこびり付いていることを、もう少し考えないと。
蓮沼
目に見えるノイズは目立つからどうしても排除したくなる。ホームレスを排除しがちなのも同じです。でも社会って、それも受け入れながら構成されていくと思うんです。一方、音の場合、ビーというすごいノイズが鳴れば「これはノイズだ」となるけれど、音楽の場合すんなり入ってしまう。そこを見直したいという野望があります。緊急事態宣言後に、渋谷にフィールドレコーディングに行ったら、広告の音がこだましていました。人がいないから、人がつくった音だけがエコーして、ディストピア的でグサっときました。少しずつでもそれを変えていくことに意識的になりたいです。
永野
ソニーパークでも「Silence Park」というプログラムをやっていただいていますね。BGMではなく。
蓮沼
BGS、バックグラウンドサウンドです。ソニーパークもBGMを考え直しているとのことだったので、音楽を流すことに懐疑的な僕は、世界中のサウンドアーティストに、フィールドレコーディングした環境音をもらい、空間にすっと流しておくことにしました。それも試みの一つです。その街にある音楽、音を捉え直す、考え直さないとまずいんじゃないかという感じです。
永野
2021年の9月末でソニーパークが一旦終わり、次のビルを建てるのですが、普通のビルにするつもりはありません(笑)。次は「公園を縦に伸ばす」というコンセプトです。どうやって公園を縦に伸ばせるか、新しい定義をしたい。ソニーがつくってきたものには、ソニーらしさの3つのルールがあります。「再定義する」「世の中に問う」「未来の一歩になる」です。例えば、ウォークマンは音楽の聴き方を再定義し、世に問いました。結果、外で音楽を聴くことが日常になり、クリエイターの考えも変わって未来の一歩になった。ソニーパークも、都市における公園を再定義して「こういう公園ってどうですか」と世に問いかけました。あとは、これありなんじゃないかと思う人が増えてくると、未来の一歩になってきます。蓮沼さんの「捉え直し」というお話と、僕の思う「再定義」は、言葉は違っても同じ枠組みですよね。いろいろ言われても躊躇せずに勇気を持って踏み出しましょう。
今日はたくさんの貴重なお話をありがとうございました。
蓮沼
ありがとうございました。

(2020年12月11日 Ginza Sony Parkにて)

対談にも登場した『Silence Park』の再公開が決定!

■『Silence Park』 curated by Shuta Hasunuma
Ginza Sony Parkでは、世界のアーティストたちの視点を介してこの時代の空気感を表現する、世界各地の環境音を素材として制作したバックグランドサウンド作品「『Silence Park』 curated by Shuta Hasunuma」を公開します。
期間:2021年4月1日(木) ~ 終了日未定
場所:Ginza Sony Park (東京都中央区銀座5-3-1)
特設サイト:https://www.ginzasonypark.jp/silencepark/
ハッシュタグ:#silencepark

対談者プロフィール

蓮沼執太(はすぬま・しゅうた)

蓮沼執太(はすぬま・しゅうた)
音楽家/アーティスト

1983年東京都生まれ。国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、パフォーマンス、CMなど、多彩な音楽制作で活躍し、個展形式での展覧会を活発に行う。主な展覧会に『Compositions』(Pioneer Works, NY、2018)、『 〜 ing』(資生堂ギャラリー、2018)など。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。蓮沼執太フィル公演『○→○』コンサートを4月23日Bunkamuraオーチャードホールにて開催。

永野大輔(ながの・だいすけ)

永野大輔(ながの・だいすけ)
ソニー企業株式会社代表取締役社長/チーフブランディングオフィサー

1969年生まれ。1992年にソニー株式会社入社。営業、マーケティング、経営戦略、CEO室などを経て、2016年に「銀座ソニーパーク プロジェクト」の室長に着任。同プロジェクトのさらなる推進のため、2017年4月より現職。「Ginza Sony Park Project」のリーダーとして、2013年からプロジェクトを推進し続け、2018年8月9日に「Ginza Sony Park」をオープンさせた。

  • 撮影 : 鈴木穣蔵
  • 構成・文 : 若林朋子
  • 企画・調整 : 永井真未(全銀座会G2020)、森隆一郎(全銀座会G2020アドバイザー、渚と)
  • 会場協力 : Ginza Sony Park