インタビュー

「職住遊」の融合で暮らしたい街に変えていく
梅澤高明さん(左)と樋口雄一(右)

Amazing Ginza! Talk No.6

「職住遊」の融合で暮らしたい街に変えていく

長年にわたって多様な産業のイノベーションやマーケティング戦略をリードし、近年は「NEXTOKYO Project」を率いて東京の将来ビジョンを政財界に提言する梅澤高明さんの目には、日本のまちの未来がどのように映っているのでしょうか。銀実会第69代理事長であり、ホテル業や不動産業にも携わる樋口雄一が、コロナ以降を見すえた銀座のまちづくりについて梅澤さんに伺いました。

予期しない出会いと会話が生まれそうな、人が混ざる装置をつくる

梅澤
音楽好きな僕にとって、銀座の大事なスポットの一つはPLUSTOKYOです。2019年にDJデビューして以来、最初に定期的に出演させてもらったのがPLUSTOKYOです。もう一つは、日本が誇る作曲家・編曲家・プロデューサーの大沢伸一さんと小林武史さんが肝いりでつくったGINZA MUSIC BAR。ここではレジェンドDJの沖野修也さんなど、錚々たる音楽家が選曲をしています。
樋口
DJもなさるんですね。銀実会にも「アンコマン」というDJユニットのメンバーたちがいます。あんぱんの木村屋總本店の木村光伯さん、空也もなかの山口彦之さん、松崎煎餅の松﨑宗平さんなど和菓子屋さんの集まりで、お客さんに和菓子を無料で振る舞って、音楽を聴きながら和菓子に親しんでもらおうと、PLUSTOKYOで月1ぐらいで回しています。
梅澤
おつですねえ。PLUSTOKYOでお会いしたことがありますよ。そういう場こそ街の装置として本当に大事だと、コロナ以降強く感じます。つい先月、「CIC Tokyo」という日本最大級のイノベーションキャンパスをオープンしたんです。僕のメインミッションは人が集まって新しいアイデアを交換してイノベーションを起こす場をつくることですが、夜のDJパーティーがいい装置になっています。スタートアップの人、音楽関係者、官僚、大企業の人が交ざる。普段あまり接触しない人たちが「みんな梅澤の友だちなのかな?」と話し始めてみると、「そんなことやってるんですか、じゃあ何か一緒にやりましょう」みたいな話がどんどん起こる。CIC Tokyoという巨大な装置で人を交ぜることにも一所懸命ですが、夜のDJパーティーは話が早いとも感じます(笑)。
樋口
銀座はスタートアップには本格的に取り組めていないので、まだまだ余地ありです。銀実会は40歳以下の経営者の集まりですが、活動は全部ボランティアです。いまコロナでいろいろ模索しているところなので、ぜひCICのスタートアップの方々に新鮮なアイデアをお聞きしたいです。短期的に利益を取りに行くよりも、「社会的な役割って何だろう?」から入っていくような方々と情報交換してみたいですね。場の装置であるCICと銀座が結び付きそうなことは、何かありますか?
梅澤
銀座には、老舗のファミリー企業がたくさんある。これはものすごい財産です。社会に価値を提供し続けているのが老舗ですから。日本の老舗の数は世界に誇れるものです。銀座の老舗の若旦那たちがCICに大挙して来てくれて、スタートアップコミュニティーと交ざってもらうだけでも、何か起こるかもしれない。銀座の皆さんも、次の時代に向けて事業をどう変化させていこう、進化させていこうと悩んでいらっしゃるはずだから、何かやりましょうか。
樋口
ありがたいです。銀実会は多様な業種の集まりで、30代ぐらいの好奇心旺盛な会員も多いです。
梅澤
まずは一度CICに来ていただくと、雰囲気が変わっていいかもしれませんね。どういう老舗の人が来るか事前に情報をいただいて、「老舗×スタートアップ」を仕掛けたらおもしろそう。「CIC LIVE」というインターネットラジオ局を運営しているのですが、ナビゲーター10人で配信していて、そのうちの1人がまさに日本中の老舗を発掘しては未来につなげているので、引っ張り込みますよ。
樋口
すごく興味あります。ぜひお願いします。
梅澤
一般論で言うと、都心の街づくりは曲がり角です。オフィスはリモートワークが増えて需要がもう増えないし、商業店舗はコロナでオンライン消費が加速したから今後は需要が減る。今までの街づくりは、オフィスに通ってくる人と、小売店舗、飲食に来る来街者を引きつければ成立したけれども、その磁石がかなり弱まった。銀座も丸の内も渋谷も、「どういう磁石をもう一回作るか?」という問いが立っていて、街に人が来る理由をもう一回作り直さなければならないわけですが、誰もまだ教科書を持てていない状況です。だからこそ、いろいろなクラスターの人が集まって、交差して、予期しない会話が生まれるような場をつくらないと、多分もう街の価値はなくなるのではないかと思います。都心も、地方都市も。
樋口
つまりCICのイノベーションは、予期しない何かが生まれそうな、いろいろな人たちをミックスすることから始まるわけですね。
梅澤
手を替え品を替え、強制的に交ぜています。どうやったら会話が弾むか繰り返し実験しています。オンラインはやることもメンバーも決まっている場合はとても効率がいいのですが、予期しない出会いと会話を生むのはかなり苦しくて、これはオフラインの役目だとあらためて感じています。まさにオンラインとオフラインは車の両輪ですね。そしてオフラインで人を集めるためには強力な磁石が必要です。
樋口
オンラインとオフラインのメリットは大変共感します。2021年3月の東京クリエイティブサロンに銀座も参画させていただくので、毎週打ち合わせをしているのですが、オンラインだと、報告事項は共有できても、企画の内容の話はどうしても深まらないのですよね。結局マスクをしてリアルで打ち合わせをしています。

歩きたくなる居心地いい「ウォーカブルシティ銀座」をめざす

樋口
銀座のいいところは、ショッピングとグルメの両輪があることです。もう一度、そこを一から見つめ直して、街の魅力を再定義する必要がありそうです。銀座は、渋谷や六本木のような高層の開発を選びませんでした。比較的空が見えるフラットな面開発が特徴なので、店舗の1階部分を魅力ある形にして、銀ぶらで楽しく過ごせる街にしていきたいです。
梅澤
東京中の街で、もっとストリートを使ってほしい。銀座は、大通りも細い路地も、両方使えますよね。街づくりではパブリックスペースの活用が本当に大事で、国土交通省もようやく2019年から「ウォーカブルシティ」と言い始めました。銀座はウォーカブルシティの代表例になりうる街ですよ。
樋口
銀座の人間にとって歩行者天国は気持ちのよりどころです。国道の中央通りを毎週末に止めて歩行者天国にしていますが、もう少しそこでイベントやにぎやかな仕掛けができるといいかなと。
梅澤
そう思います。道路にテーブルと椅子並べて、フードバンとカフェが当たり前にあって。
樋口
中央通りから分岐するところに、マルシェのように銀座の銘店がおしゃれな出店を出したり。毎年泰明小学校で行う納涼イベント「ゆかたで銀ぶら」に銀座の銘店の屋台が出るのですが、銀座千疋屋さんのかき氷など、果肉がすごく大きくておいしいですよ。
梅澤
すごくいいいですね。納涼イベントなのに客単価5000円みたいな。なかなか他ではできない(笑)。お客さんも今は屋外のほうが安心するし、飲食店もテラス席をつくる流れです。真冬はちょっと寒いですが春先になればね(笑)。銀座にはストリートミュージシャンはいないんですか?これだけ広い通りがあって、人はほとんど住んでいないのだから、ジャズも弾き語りも、いろいろな種類のミュージシャンが中央通りで演奏できますよね。
樋口
ストリートミュージシャンはいないのですが、銀座中に音楽を流すお祭りをやりたいとか、真ん中にやぐらを建てて盆踊りをしたいという話は出ています。試験的に3年ほど前から泰明小学校で「大銀座盆踊り」を始めたのですが、いつかは中央通りでやぐらを組んで、音楽も流したいです。
梅澤
ぜひやってください。どんぴしゃりな街です。銀座は大人のカルチャーも再考していいと思います。もともと劇場が集積して、新しいエンターテインメントは銀座発だった時代があったのですから。富裕層観光にも本気で取り組んでほしいです。コロナ後のインバウンドが4000万人、6000万人に戻るにはまだ少し時間がかかるので、客単価を上げるチャンスです。東京で富裕層の受け皿になる街は銀座と六本木ぐらい。特にモダンラグジュアリーと呼ばれる、比較的ニューリッチの人たちのニーズは世界共通で、質の高い宿泊施設とおいしいご飯、そして「お楽しみ」です。これでもう1泊するかが決まります。夜歩いていたら気持ちいいジャズが流れてくる街は、居心地よくて長居したくなりますよ。
樋口
実は弊社も、昭和30~40年代に「ホール全線座」というダンスホールを銀座で運営していました。昔はちょっとした音楽が流れていて誰でも行けるホールが銀座の至る所にあったようですが、今ではほとんどなくなってしまいました。高級なクラブはたくさんありますが、観光客が気軽に入れる感じではないでしょうから、夜の時間を楽しめる場所が増えれば、富裕層が来やすくなるのかなと思います。
梅澤
みんなが楽しそうに歩いている街は、国内外を問わずパブリックスペースの使い方が充実しています。外にテーブルと椅子が並んで、夜中までお酒やコーヒーを飲んでいる。オープンエアで、ビーチで音楽、お酒で夕暮れが気持ちいいみたいな雰囲気は圧倒的に大事です。そう考えると、銀座はやはりストリートなんですよ。ミックスされる場所だし、空があって、お日さまが照っていたりすると、なおさら気持ちが開ける。
樋口
56メートルという高さ制限「銀座ルール」がある銀座は、超高層のビルが建つ他の商業地域と比べると空が広がっていて、歩いていて気持ちいいです。
梅澤
屋上にも可能性がありますね。あまり高くないビルだからこそ、屋上がいいんですよ。高層ビルの屋上は、見晴らしはよくても別にすごく気持ちいいこともないですが、銀座くらいの高さのビルの屋上は居心地がいいでしょうね。
樋口
銀座のビルは高さ制限がある分、屋上がゆったりした感じがあります。そこは銀座の大きな売りかもしれないです。
梅澤
緑がいっぱいの屋上でDJやりたいなあ。オープンエアは気持ちいいことが多いです。

「職住遊」の融合が生活の質を上げ、住みたい街に変えていく

樋口
ところで、街づくりにおける職住近接をどう思いますか?
梅澤
すごく大事なテーマですね。僕がコロナ後の東京の街づくりで掲げたテーマのひとつが、「職住遊」の融合です。今までの日本の街づくりは、職場エリアとベッドタウンと遊ぶ街を分けていました。これは融合したほうが絶対にクオリティー・オブ・ライフが上がって、みんなハッピーになります。都心部も、郊外も、地方都市もです。リモートで済むことはリモートで済まそう、通勤しなくていい日は通勤しないほうがいいよねという価値観に変わってきたわけだから、当然、職と住は融合します。でも、そこにおいしいご飯があって、楽しく遊べる場所がなければ、生活の質は上がらないですよね。なので、銀座も人を住まわせたほうがいいですよ。
樋口
この5年くらい、銀座にホテルが急激に増えたのですが、ホテルは短期的な滞在です。もう少し長い期間住むような、もう少し住宅に近いような機能があってもいいのではと感じます。
梅澤
そう思います。しかもいろいろな価格帯の住宅がほしいです。高価格帯だけだと金持ちのシニアしか住めないので、街の多様性は増えません。これから古い雑居ビルがどんどん空くでしょうから、それをコンバージョンして、かなり安く住めるようにするとか、アトリエ兼レジデンスにしてアーティスト・イン・レジデンス(芸術家の滞在制作やその支援)を始めるとか、銀座もそういうことやるといいですね。
樋口
ビルの使い方含め、職住遊の融合は可能性としてはありそうです。例えばニューヨークのソーホーのような。もしくは、ちょっと足を延ばせば家のほうも回れる「銀座圏」というんでしょうかね。そういうところでもう少し人の集積があるといいかなと思います。
梅澤
銀座にはたくさんの画廊があるけれど、銀座が育てたアーティストってあまり聞かないのです。それは若手のアーティストが、ここ銀座で活動してないからではないかと思います。やはりよそ者をどんどん受け入れてかき回し、ストリートを使い倒す、この2つで銀座は大きく変わるはずです。
樋口
もともと銀座は、新しい人たちに対してわりと寛容です。結構ウェットで、みんなおせっかい。ちゃちゃは入れますが、新しいもの好きな人たちが多いです。UNIQLO TOKYOさんやハイアットさんなど、新しい店もたくさん入ってきているので、古くからある店ともっと交ざっていけるといいなと思います。
梅澤
今って、ちょうど「モボ・モガ」※1の時代から100年ぐらいですよね。もう一回、銀座で何かやりましょうよ。世界を驚かせたらいいじゃないですか。当時のモボ・モガは、女性の地位向上の発露でもあったわけですし、100年後に見過ごしていていいのでしょうか。東京のためにもお願いします。日本の未来もかかってます。
樋口
ほんとうですね。今日は、銀座のまちづくりにさまざまなアイデアをありがとうございました。エールもたくさんいただいたような気がします。
梅澤
思いきりエールを送りました(笑)。

(2020年11月19日 BAR/Sにて)

※1
1920年代の大正末期から昭和期に流行った「モダン・ボーイ」「モダン・ガール」の略語で、西洋文化の影響を受けた当時の流行の最先端だった日本の若い男女、あるいはその若者文化から生まれたファッションや風俗のこと。モボ・モガが多数集まる場所が銀座だった。

対談者プロフィール

梅澤高明(うめざわ・たかあき)

梅澤高明(うめざわ・たかあき)
A.T.カーニー株式会社日本法人会長/CIC Japan会長

東京大学法学部卒、MIT経営学修士。日米で25年にわたり、戦略・イノベーション・都市開発などのコンサルティングを実施。国内最大の都心型イノベーション拠点「CIC Tokyo」で、スタートアップコミュニティを構築中。観光、知財戦略、クールジャパンなどのテーマで政府委員会に参加し政策立案に関与。「NEXTOKYO Project」や「ナイトタイムエコノミー推進協議会」の活動を通じて、街づくり、文化創造、観光立国の融合を目指す。

樋口雄一(ひぐち・ゆういち)

樋口雄一(ひぐち・ゆういち)
銀実会第69代理事長/株式会社ゼントラスト代表取締役社長

1981年東京都生まれ。2003年に立教大学を卒業後、東急不動産株式会社へ入社。新築マンションの用地買収や事業企画に従事。2011年に曽祖父の代から創業87年を数える全線座株式会社へ入社。現在は4代目として銀座国際ホテルの経営に携わる。2015年には株式会社ゼントラストを設立し、オーナーから受託した不動産の賃貸管理や売買仲介を行う。2020年銀実会第69代理事長。銀座の仲間たちと飲み食いしながら語り合う時間が何よりの楽しみ。

  • 撮影 : 鈴木穣蔵
  • 構成・文 : 若林朋子
  • 企画・調整 : 永井真未(全銀座会G2020)、森隆一郎(全銀座会G2020アドバイザー、渚と)
  • 会場協力 : BAR/S(資生堂パーラー)