CSR・CSV

オリスジャパン

Ginza×CSR・CSV Vol.39 オリスジャパン

「真のスイス製機械式時計」、110年以上の歴史刻む

2020.12.11

「銀座×CSR・CSV」第39回で紹介させていただくのはオリスジャパンです。1904年にスイス・ヘルシュタインで創業して以来、110年以上にわたり機械式時計を作り続けてきました。2019年6月には日本初となるブティックを銀座にオープンし、機械式時計の魅力を発信するだけではなく、社会課題に対する啓発活動にも力を入れています。オリスジャパンの田中麻美子代表取締役に話を聞きました。

機械式時計の楽しさと美しさ

  • ─ 創業以来、一貫して「真のスイス製機械式時計」にこだわっています。改めてその思いやこれまでの歴史について教えて頂けますか。
  • オリスは1904年、スイスのヘルシュタインという小さな村で創業しました。創業当時から現在まで機械式時計にこだわり続けています。機械式時計はメンテナンスをすれば一生涯使える時計で、電池を使いません。

    手で巻くか、身に着けている人の動きによってゼンマイを巻くことで生まれるエネルギーが原動力になります。着けていれば動き続けるという楽しさに魅力があります。

    もう一つの魅力は、小さな腕時計の中に自動車のエンジンと同じ数ほどの部品が入っており、機械そのものの美しさがあります。どんなに正確な機械式時計でも、使い続けると一日数秒の差が生じます。その差を自分で直すことも含めて、機械を楽しむ点が魅力です。

    スイス企業の多くは、地元で雇用を生み出し、地域のためにビジネスを行おうとする意識が根底にあります。オリスも同じで、スイス国内の工場で製造し、最盛期には6カ所に工場を構え、部品から外装まで一貫生産を行っていました。世界で10位以内の生産量を誇る時期もありました。

    しかし、世界恐慌に続く第2次世界大戦から立ち直ろうとした矢先、1970年代に「クオーツショック」が起きます。クオーツ時計が開発・販売され、「リュウズを巻かなくても良い、画期的なもの」として急速に広まりました。

    世界中の時計市場をクオーツ時計が占め、当時、スイスの機械式時計メーカーが1000社ほど廃業に追い込まれる事態になったのです。オリスはASUAG(後のスウォッチグループ)の傘下に入り、廃業を免れましたが、ホールディング会社の中で優先順位を低く位置付けられました。

    そこで、当時のマーケティング責任者と管理責任者が機械式時計の市場が持続することを信じ、オリスを買い戻して独立したのです。何よりも、彼らは「自分たちが作りたいものを作る」という思いを大切にしていました。
2019年6月にオープンした「オリス銀座ブティック」

2019年6月にオープンした「オリス銀座ブティック」

オリスジャパンの田中麻美子代表取締役

オリスジャパンの田中麻美子代表取締役

機械式時計の危機を救う

  • ─ それは大きな決断ですね。市場が変化するなかで、一貫して機械式時計にこだわり続けることは大変な苦労があったのではないでしょうか。
  • 当時、すでに6カ所の工場を手放しており、部品の外注をしなければなりませんでした。同じく、廃業危機にあったムーブメント(時計を動かす内部の部品)メーカーや下請け会社も事業の継続に悩んでいました。そうしたメーカーや会社に対して「資金援助はできないが、必ず買うことはできる」として協力体制を築いたのです。

    協力したムーブメントメーカーや下請け企業のなかには、今も業界のトップに立つ企業があります。オリスの独立によって同業他社を助け、結果として機械式時計業界を救ったのです。
オリス銀座ブティックには、アンティークの時計も並ぶ

オリス銀座ブティックには、アンティークの時計も並ぶ

■ 宣伝の代わりに社会貢献活動を

  • ─ オリスは寄付付き商品の展開やクリーンプロジェクトなど、社会貢献活動に熱心に取り組んでいます。改めてサステナビリティ(持続可能性)に関連する具体的な取り組みについて教えてください。
  • オリスは多くのブランド企業のようにセレブリティをアンバサダーとして使いません。広告費用を自分たちが賛同するNPOなどの支援に充てています。売り上げの一部が寄付されるので、時計の購入者が好きな時計を選ぶと同時に、慈善活動に参加する仕組みができています。

    2017年から「モベンバーエディション」を販売し、この売り上げの一部をモベンバー財団に寄付しています。モベンバー財団は、前立腺がんや精巣がんなど男性特有の病気やそれによる自殺者が増加している社会的背景から、医師や周りに相談する機会が少ない男性の健康意識を向上するためのチャリティ活動を行っています。

    2020年9月に発売した「ロベルト・クレメンテ リミテッドエディション」は、ロベルト・クレメンテ財団を支援しています。この財団は、慈善活動に従事し、命を落としたプエルトリコ出身のメジャーリーガーであるロベルト・クレメンテ選手の遺志を継ぎ、子どもたちへの教育やスポーツ振興活動を行っています。

    このほか、オリスは、自分たちも活動を実践することを大切にしています。例えば、スイスや日本など水道水を飲むことができる国にでは、市販の飲料水を使うことに反対しています。市販の飲料水は地下水を汲んだり、ペットボトルなどに入れて運んだりして環境に負荷をかけているからです。そのため、銀座ブティックではカルキを抜く備長炭を水道水に入れて使っています。

    店舗で使う電気も再生可能エネルギーを導入しています。オリスという社名は、地元の小川から名付けられたのですが、それに関連して、長野県の高遠ダムの水力で発電した電気を選んでいます。
オリス モベンバーエディション」。売り上げの一部が、男性の健康支援とがん撲滅を口ひげでアピールする、オーストラリアのモベンバー財団に寄付される

オリス モベンバーエディション」。
売り上げの一部が、男性の健康支援とがん撲滅を
口ひげでアピールする、オーストラリアのモベンバー財団に寄付される

「ロベルト・クレメンテ リミテッドエディション」。クレメンテ選手の背番号21にちなんで、数字の「21」がゴールドになっている

「ロベルト・クレメンテ リミテッドエディション」。
クレメンテ選手の背番号21にちなんで、
数字の「21」がゴールドになっている

顧客とともに銀座でごみ拾い

  • ─ 銀座ブティックをオープンして以来、クリーン活動を実施しているそうですね。
  • 2018年にオリス本社がワールドクリーンアップデーに参加して以来、日本でもクリーンプロジェクトを実施しています。2019年7月から月に1回程度、銀座のクリーンアップ活動やビーチクリーニングを積極的に企画しています。従業員だけでなくお客様や関係者など誰でも参加することができます。

    オリスではこうしたプラスチックごみを拾うだけではなく、リサイクルやごみ問題への意識を高めることにも力を入れ、2018年にはリサイクルプラスチックベルトを使用した特別モデルも発表しました。
11月に銀座で実施されたクリーン活動の様子。従業員や顧客など約30人で銀座の街を掃除した

11月に銀座で実施されたクリーン活動の様子。
従業員や顧客など約30人で銀座の街を掃除した

リサイクルプラスチックをベルトに使用した特別モデル「ダイバーズ65」

リサイクルプラスチックをベルトに使用した
特別モデル「ダイバーズ65」

  • ─ 最後に銀座への思いをお聞かせ頂けますか。
  • やはり銀座は特別な街で、個人的に大好きな街です。歴史があって、100年企業がたくさんありますから。商店街があり、何代も店を営む方々も多いので、その歴史に触れられます。

    街の景観保護など、伝統を守り、受け継いでいくことを大切にする銀座にいる人々の心意気が素晴らしいですね。
オリスジャパン株式会社 代表取締役

田中 麻美子

オリスジャパン株式会社 代表取締役、在日スイス商工会議所役員、日本プレイワーク協会理事、千葉義塾理事、歯科衛生士。兵庫県出身。オーストラリア南クイーンズランド大学アジア研究専攻BA。青年海外協力隊で在フィリピンインドシナ難民センターに2年在勤。外資系ブランド日本法人での事業立上や再編など様々なプロジェクトに携わり、2012年から2017年末までビクトリノックスジャパン株式会社代表取締役。2018年スイス機械式時計ブランドOris の日本法人を立ち上げ、現在に至る。

取材・文・企画・編集:株式会社オルタナ

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