CSR・CSV

山野楽器

Ginza×CSR・CSV Vol.34 山野楽器

200年の歳月を見据え、「音楽のある豊かな暮らし」を日本へ

2019.10.15

「銀座×CSR・CSV」第34回で紹介させていただくのは、山野楽器です。1892年に創業した同社は「音楽普及を通じて、社会へ貢献する」ことを企業理念に掲げ、楽器や音楽ソフトなどの販売や音楽教室の運営、音楽関連イベントの企画・開催などさまざまな事業を展開しています。今回は山野楽器の音楽、そして社会への思いを同社取締役営業本部本部長兼教室事業部長の古田淳さん、同社執行役員広報室室長兼販促マーケティング室室長の須永由美子さんに伺いました。

「音楽は国境を越える」、創業の想いを胸に

  • ─ 山野楽器は明治25年(1892年)に創業され、創業者の「音楽は人と人とを繋げることができる、万国共通の言語である」という想いを受け継がれています。
  • 古田:
    この理念は創業者・山野政太郎が米国留学から帰る船の上で、楽器の演奏、音楽の力によって、言葉や人種の壁を超えて人々がつながる姿を目の当たりにしたことに由来します。当時、音楽は一般の方にとって特別なもので、「高値の花」という存在でした。

    初代は「市井の人にも音楽を楽しんでいただけるような世の中をつくっていきたい」と、山野楽器の前身となる松本楽器でオルガンとピアノの製造・販売に取り組み、その後、事業を継承して山野楽器の代表社員となりました。震災や戦争などによる社屋の倒壊なども体験しながらも、それを乗り越え経営再建を図ってきたのです。

    戦後は1957年に子どものためのオルガン教室・ヤマハ音楽教室をスタート。その後レコードやCDなどソフト販売が拡大した時期を経て、楽器の小売に加え卸を拡充。1998年には有楽町に日本で初めて社会人をターゲットにした大人のための音楽教室(ヤマノミュージックサロン)を開設しました。その後、幅広い世代を対象に郊外のショッピングモールや百貨店など、普段音楽になじみの少ない方がたくさんいらっしゃるスペースにも場を広げています。

音楽に「触れる」ことは人をつなぐ機会に

  • ─ 「音楽普及による社会貢献」の一環として、1970年からはジャズコンテストも展開しておられます。
  • 古田:
    先代の三代目社長 山野政光が、学生たちのビッグバンドをサポートし、プロとつないで、成果を発表する場をつくろうと始めました。当初はコンサート方式でしたが、5回目からは「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」というコンテスト形式に発展し、学生バンドの甲子園のような熱気の溢れる場になっています。

    今年50回目を迎え、これまで述べ4万人ほどが参加しました。実は私も40年前の出場者で、最近は自分の子どもも出場を果たし、親子二代で参加したことになります。

    このコンテストは、通称「YAMANO」と呼ばれていて、このコンテストを通じて山野楽器の存在を知る人たちもたくさんいるのです。コンテストの出場者からは、プロのミュージシャンになった方も100名以上出ていますので、日本のジャズシーンの発展に多少なりとも貢献しているのではないかと感じています。

    2015年には第一回「社会人ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・フェスティバル」を開催しました。こういった場があることで、かつて「YAMANO」に参加した方や、若い時には出られなかった方などが、このジャズ・フェスティバルに参加し、音楽を通じてつながり合う機会にもなっています。山野政彦社長も「少なくとも100回は続ける」と言っており、次の世代にも継承したいという想いを抱いているのです。
「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」の50回大会を記念し、今年は小学生から社会人、プロまでが参加する「山野ジャズ」など特別イベントも併催した

「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」の50回大会を記念し、今年は小学生から社会人、
プロまでが参加する「山野ジャズ」など特別イベントも併催した

  • ─ 楽器と触れる場をつくることが、人の心をつなぐことにもなっているのですね。
  • 古田:
    東京ビックサイトで2年に一度開催されている「楽器フェア」は山野社長が中心となって取り組んできた国内最大のコンシューマー向けの楽器展示会です。また、日比谷公園の記念事業の一貫として今年から始まった「日比谷音楽祭」にも参画しています。

    日比谷音楽祭は、音楽プロデューサーの亀田誠治さんが発起人となり立ち上がった企画です。抽選でコンサートに無料で参加できたり、だれでも気軽に楽器体験ができる場所を設けていたり、普段楽器や音楽に馴染みがない方たちも大勢足を運んでくださり、2日間で10万人もの方が訪れました。

    須永:
    私たち山野楽器の社員は、自分たちも音楽好きなので、楽器や生演奏の楽しさを感じてほしいという想いを共有しています。日比谷音楽祭や仙台の定禅寺ストリートジャズフェスティバルでは、楽譜を配布し、即興でみんなで演奏するスウィングカーニバルを企画し、経験・未経験にかかわらず、みんなで一体となって音楽を楽しむイベントなどに協力しています。

    もちろん楽器販売は当社のビジネスですが、商売っ気を抜きにしても、音楽の楽しさを伝えていきたい。やってみたくてもなかなか一歩踏み出せていない人たちにも、「そんなに難しくないし、心や人生がすごく豊かになるよ」ということを知って頂きたいのです。
特別協力した「日比谷音楽祭」は、多くの人たちが楽器や生演奏に触れる機会となった

特別協力した「日比谷音楽祭」は、多くの人たちが楽器や生演奏に触れる機会となった

暮らしの豊かさに寄り添い、音楽の可能性を広げる

  • ─ 創業当初から比べると、日本にも随分音楽の文化が根づいているのではないでしょうか。
  • 古田:
    初代は「西洋音楽を本当の意味で日本に根づかせるには200年は掛かる」と言っていたそうです。現在創業127年ですから、本当に根づくにはあと73年は掛かるということですね。

    確かに世の中に音楽は溢れていますが、その関心はその時々の流行に偏っているように思います。メディアに注目される音楽も、演奏・視聴される音楽の幅も限られています。一人ひとりが自分の感性に合う音楽、自分が好きだと感じる音楽を持っていることが、成熟した音楽文化だと思います。

    総務省のアンケートによると、1年間に楽器を1度でも触ったことのある人は10人に1人という割合だそうです。

    これまで日本の社会は、音楽教育を学校に頼ってきましたが、学校でも音楽の授業や課外活動が減ってきているといいます。学校の吹奏楽部だけではなく、社会にある市民バンド、コミュニティーでの音楽活動が盛んになることが地域社会の活性化にもつながっていくのではないでしょうか。
仙台の「笹かまギター」(写真)など、ユニークなご当地ギターの企画開発は、普段楽器に接点のない人たちが関心を向けるきっかけにもなっている

仙台の「笹かまギター」(写真)など、ユニークなご当地ギターの企画開発は、
普段楽器に接点のない人たちが関心を向けるきっかけにもなっている

  • ─ 御社が変わらずに大切にしていきたいものとは何でしょう。
  • 古田:
    コーポレートボイスとして「Be happy with music(音楽のある楽しい暮らし)」を掲げていますが、もうひとつ方針としては、お客様と縁ができたら、その方のその後の人生が音楽によって豊かになることにずっと寄り添っていきたいという想いがあります。

    最新の研究では、楽器の演奏は脳の活性化につながり、認知症の予防にも有効だということが分かってきました。今後高齢化社会を迎える日本社会において、この分野に取り組むことが我々の使命でもあると感じているんです。

    例えば小学校で演奏したリコーダー、鍵盤ハーモニカやオカリナなど、弾きやすい楽器を使いながら、シニアの方が公共施設などで気軽に楽器を楽しめるような場をつくったり、指導者を派遣したりということをやっていけたらと思っていますね。
  • ─ 最後に、銀座への想いをお聞かせください。
  • 須永:
    銀座という歴史的にも文化・芸術に成熟した土地で、文化に携わるビジネスを続けていけることを、とても貴重なことだと思っています。

    古田:
    銀座の街の変化、時代の変化に応じて、自分たち自身も変化し続けていくこと。接客の質を高いレベルで維持しながら、さらに上を目指していきたいと思います。
古田 淳
取締役 営業本部本部長 兼 教室事業部長

古田 淳

学生時代はビッグバンドに所属、モントルー・ジャズフェスティバル等に参加。「第9・10回ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト(以下YBBJC)」に出場。それがきっかけで1981年山野楽器入社。海外営業部、楽器小売部門、教室部門を経て2017年より現職。また2014年よりYBBJC大会本部長も兼務。
須永 由美子
執行役員 広報室 室長 兼 販促マーケティング室 室長

須永 由美子

1985年西武百貨店入社、カルチャースクール企画や店舗販売促進を担当。2007年山野楽器入社。販売促進やWebマーケティング部門を経て、2015年よりデジタルマーケティング室(現販促マーケティング室)室長、2016年より広報室長兼務。2018年執行役員就任。休日は親父バンドでキーボードを楽しむ。
今井 麻希子
ライター

今井 麻希子

株式会社オルタナ
外資系IT企業等に勤務の後、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約締約国会議(COP10)にNGOの立場で参加したことを契機に、環境やソーシャルの分野に仕事の軸をシフト。生物多様性やダイバーシティをテーマに、インタビューや編集・執筆、教育プログラムの開発や対話型カウンセリング・セッションを手がける。

取材・文:今井麻希子 / 企画・編集:株式会社オルタナ

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