GINZA CONNECTIVE (高嶋ちさ子対談シリーズ)

山本 豊津×高嶋 ちさ子

GINZA CONNECTIVE VOL.19

山本 豊津×高嶋 ちさ子

2013.04.01

ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんと、銀座人たちの対談シリーズ。高嶋さんにとって銀座は、仕事でもプライベートでも思い入れのある街。そんな高嶋さんに、ゲストの方をお迎えして銀座のあれこれをディープに聞いていただきます。今回のゲストは、日本初の現代美術画廊「東京画廊」の代表取締役社長、山本豊津さんです。

アートはマイナスが大きいほどプラスに転じる力が強い。

山本さん
僕が思うに、アートはマイナスが大きいほどプラスに転じる力が強いんです。
高嶋さん
どういうことですか?
山本さん
ディズニーランドのミッキーマウス。あれは、ネズミでしょ?ネズミはペストを運んでくるからヨーロッパでは嫌われモノだった。なぜ、そんなネズミをウォルト・ディズニーが主役にしたのか不思議だったんだけど、あれは最初ウサギだったらしいの。でも、あるとき人に騙されて、版権をとられてしまって、もうウサギは使えなくなった。それで誰にもとられないような動物は何だろうって考えて、ネズミになったらしいんです。
高嶋さん
そうなんですね!初めて知りました。
山本さん
ネズミっていうのは、人に嫌われているマイナスのイメージだから、転じる力も強かったんです。アートも同じで、バカバカしいほど逆転するとプラスに転じると思う。僕がよく若い作家たちに言うのは、ひとつの作品に明るさだけではダメだということ。暗さというものも感じさせないといけない。死だとか、人間が一番嫌っているものを作品に入れないと、長持ちしないんです。人間は明るさだけでは生きていけない。明るさは暗さがあるからより輝くんです。だから僕は、明るくて癒されるだけのアートは短時間で飽きると思う。
高嶋さん
では、山本さんがアートをセレクトされるときの基準は、「プラスの力だけでなくマイナスの力も強いもの」になるのでしょうか?
山本さん
そうですね。僕はまず、アーティストの話を聞いて、その人が、どれぐらいアートを必要としているか、それだけを見極める。この人からアートをとったら、どうしようもないっていう人だけを選ぶ。
高嶋さん
すごい極端ですね(笑)。
山本さん
なぜかって言うと、5年とか10年とかで飽きちゃったら困るんですよ。それから普通に頭のいい人はダメ。そういう人は機転がきくから方向転換しちゃう。年がら年中、アートにのめりこんでいる人がいいんです。
高嶋さん
アートにだけのめりこめる人ですか…なんだか本人は幸せそうですね。
山本さん
そう。だから貧しいってことに耐えられるんです。ゴッホだって生きているうちは、たった2枚しか絵が売れなかった。まさか今、自分の絵が何億もの高値で売れてるなんて思いもしなかったでしょうね。

グローバルスタンダードとローカリティが共存する銀座に。

高嶋さん
アートは街興しに重要な役割りを果たすと思いますが、銀座の街でも何か試みはあるんでしょうか?
山本さん
8年間、銀座で『スペースデザインコンペティション』というコンペを開催していました。これは、資生堂やミキモトなど銀座の10店舗のショーウィンドウを学生に解放して頂き、ディスプレイをデザインするというものです。残念ながら現在は終わってしまったんですが、次は写真をテーマにしたプロジェクトをやりたいなと思って企画しています。
高嶋さん
楽しみですね。これからの銀座はどのようにあってほしいですか?
山本さん
グローバルスタンダードとローカリティの組み合わせを考えなきゃいけないと思います。グローバルスタンダードがない時代には、自分の地域の特色もわからないままに住んでいてもよかったんです。これがドメスティックということ。でももう、ドメスティックという時代は終わった。これからは、ローカリティを見つめ直さないといけない。
高嶋さん
ローカリティというのは?
山本さん
ローカリティというのは、よその人たちが入ってくることで、自分たちが気づかないごく当たり前の日常のことが、とっても面白く見えることがあるということ。他者の目線を自分たちが持つことで、自分たちが何かということを創り出していく、そういうローカリティを銀座でやっていかないと、他の街と似たようなお店があるだけになってしまう。銀座は、表通りはグローバルスタンダードだけど、1本道を入るとローカリティ、そういう組み合わせができるといいんじゃないかな。

次回のゲストは……?

高嶋さん
次回のゲストをご紹介いただけますか?
山本さん
和装小物を取り扱う、銀座かなめ屋の代表取締役 柴田光治さんです。こちらは特にべっ甲のかんざしを多く取り揃えているんですが、もはや芸術品といえるようなものもあって、見応えがありますよ。

高嶋 ちさ子

ヴァイオリニスト。6歳からヴァイオリンを始め、海外で活躍後、日本に本拠地を移し、全国各地でコンサートを行っている。現在は、演奏活動を中心としながらも、テレビやラジオ番組の出演などでそのキャラクターが評価され、活動の場はさらに広がりを見せている。

高嶋ちさ子オフィシャルウェブサイト

山本 豊津

1948年生まれ。「東京画廊」代表取締役社長。1971年武蔵野美術大学卒業後、7年間議員秘書を務めた後、現職に。欧米の最先端の現代美術作家をいち早く日本に紹介、70年代から韓国、80年代後半からは中国の現代美術にも力を入れ、2002年には北京・大山子地区にB.T.A.P.(ビータップ)をオープン。銀座の街づくりにも尽力している。

「東京画廊」ウェブサイト

取材・文:岡井美絹子  取材場所:東京画廊

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